大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和35年(ネ)468号 判決

控訴人(原告) 樋口ひて 外四名

被控訴人(被告) 国

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人等の負担とする。

事実

控訴人等は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人等に対し原判決添付目録記載の土地について昭和三三年二月一八日土地収用法施行法六条による買受権行使を原因とする所有権移転登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人は主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張は、

控訴人等の方で、

被控訴人のような代表的な公法人が公益上の必要のために土地を買収する場合、土地収用法によらないで任意売買の形で買収を行つたとしても、これを私法上の行為といい得るかどうかは疑問である。もし被買収者が極力買収に反対したならば、土地収用法が適用されたと思われるような本件の場合も、これを公法上の行為とみて、買受権を肯認すべきであつて、土地細目公告以後に行われた協議や買収の裁決が行われた場合だけに買受権が認められるものと解すべきではない。さらに原判決添付目録記載の土地(以下本件土地という。)については、第三者は権利を取得していないから、第三者の権利を考慮して買受権を否定すべきものではない。なお当審においては予備的請求について主張しない。

双方で、

第一審原告樋口市右衛門(以下市右衛門という。)は昭和三五年一〇月一四日死亡し、その妻の控訴人樋口ひて、その子の控訴人樋口博康、樋口泰弘、松村尹久子、森田アツが相続した。

と述べたほか、

いずれも原判決事実記載と同一(ただし、予備的請求に関する部分を除く。)であるから、これを引用する。

理由

控訴人等の本訴請求を失当として棄却すべきものとする理由は次の(1)から(3)までを付加するほか、原判決理由記載と同一(ただし、予備的請求に関する部分を除く。)であるから、これを引用する。

(1)  市右衛門が昭和三五年一〇月一四日死亡し、その妻の控訴人樋口ひて、その子の控訴人樋口博康、樋口泰弘、松村尹久子、森田アツが相続したことは当事者間に争がない。

(2)  控訴人等は、本件土地について被控訴人が市右衛門との間でした買収は、公法上の行為であるから、土地収用法(土地収用法施行法六条、現行土地収用法一〇六条)による買受権が認められるべきであると主張するので考えてみる。本件土地がもと市右衛門の所有であつたが、被控訴人が昭和一八年二月頃市右衛門に対して、本件土地を飛行場用地として使用するために譲り受けたい旨申し込み、市右衛門がこれを承諾して同年二月二一日本件土地を被控訴人に売り渡し、その頃売買代金の授受も終つて、同年六月五日所有権移転登記手続をしたことは、前示(引用にかかる原判決七枚目表一行目から五行目の「なしたこと」まで)のように当事者間に争がないところである。すると市右衛門の、本件土地所有権をその対価と引換に被控訴人に移転させる前示行為は、それが公益上の必要に基づくものであり、かつ前示行為が行われない場合旧土地収用法による収用手続が発動されたと思われるとしても、直接又は間接に公権力の発動に基づくものでなく(旧土地収用法による収用手続が一切行われていないことは当事者間に争がない。)、かつ対等な法主体者間の意思の合致によるものであつて公法関係において行われたものでなく、民事的生活関係において行われたもの、すなわち民法上の売買であるというべきである。前示行為が公法上の行為であるとすることを前提とする控訴人等の主張は採用できない。

(3)  控訴人等は、旧土地収用法によらない本件土地の買収にあつては、第三者が本件土地について権利を取得しておらず、土地収用法による買受権を認めても支障はない旨主張するけれども、一般に理論上、民法上の売買に当然土地収用法による買受権を認めるときは、前示(引用にかかる原判決九枚目表五行目の「さらに」から同裏二行目の「いわざるをえない。」まで)のように、時として第三者に不測の損害を与えることとなるおそれがあり衡平の原則にもとるものであつて、本件土地について権利を有する第三者があるかどうかは、右見解を左右するものではない。控訴人等の右主張は採用できない。

そうすると、控訴人等の本訴請求は失当として棄却すべきであり、右と同趣旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 熊野啓五郎 山内敏彦 日野達蔵)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例